2023年3月30日木曜日

柳生系シンカゲ流各派の体系について(1)

 現在伝承されている柳生系新陰流は尾張藩柳生家に伝わったものが主となっています。

 柳生系統とされる流派が複数伝承されています。小城藩の新陰流、黒田藩の柳生新影流(柳生新陰流)、徳島の柳生神影流、大和柳生新陰流、柳生心眼流などです。

・小城藩の新陰流

 西小路の鍋島家が伝承した新陰流です。近代まで鍋島家で伝承されていましたが、戦前に鍋島家での伝承は途絶えたようです。戦前に学んだ方が晩年に思い出して残した三学等の一部の形が現在まで残っています。

・黒田藩の柳生新影流

 現在、黒田藩伝として故・蒲池師範が福岡で広く伝えた柳生新影流が複数会派伝承されています。伝系としては後程検討する、柳生宗厳の初期の高弟、柳生松右衛門の新影流になります。ですが公開されている流派の体系、技法や名称が有地家や三宅家の古文書類のものとは大きく異なっています。

・徳島の柳生神影流

 徳島の久武館に徳島藩新陰流由来の柳生神影流が現存しています。維新後に武徳会で活躍した久保利雄が伝承した流派です。由来は徳島へ伝わった江戸柳生の新陰流ですが、江戸時代から発展し独自の体系となっているようです。

・大和柳生新陰流

 柳生藩由来という大和柳生新陰流が現在関西や外国で伝承されています。ですが、これも公開されている範囲を見る限り幕末明治期の柳生藩の新陰流とは全く違った技法や体系となっているようです。

・柳生心眼流

 仙台藩の柳生心眼流も江戸柳生を祖の一つしていますが、剣術は独自のもののようです。

 上記のように見ていくと、過去の技法を検証の際に参考にすることを考えると、尾張柳生系の会派と小城の新陰流以外は文献での裏付けが不足している、または独自化しているために難しいと考えます。そうすると、どのように変化したか検証する必要があり、わかったとしても非常に手間がかかります。技法の検証の際はこれらの現存技法はとりあえず除いて検証を始めるのが手早いと考えます。

ですが今回は文献上の比較のみとするので、上記の件はあまり関係ありません。

文献が残る柳生系シンカゲ流各派について

 現在でも多数の文献が残っている柳生系新陰流は、
  1. 江戸柳生家系の新陰流各派
  2. 尾張柳生家の新陰流
  3. 有地家の新影流(※1)
  4. 肥後藩の當流神影流
  5. 甲乙流
などが挙げられます。(他にもいくつかありますが、それぞれの流派についての文献が少ないので今回は取り上げません)
 上記の流派について、目録等からわかる体系について比較してみたいと思います。

※1 柳生松右衛門系統のシンカゲ流では、ほとんどの場合「影」の字を使っています。これは中国地方に伝わった柳生松右衛門系でも同じだったようです。

それぞれの流派について

 尾張柳生や江戸柳生については説明不要と思います。

3.有地家の新影流は柳生宗厳の初期の高弟である柳生松右衛門の後を継いだ有地内蔵助の末裔が伝えた流派で、黒田藩に伝わったものです。柳生松右衛門とその末裔は毛利家に仕えましたが、有地内蔵助は黒田藩に移りました。のちに弟子の三宅家も新影流師範家として活躍します。また、柳生松右衛門が伝承していた新當流長太刀(俗にいう穴沢流薙刀)は有地家に二代伝わったあと同藩の美和家が師範となりました。熊本県立図書館富永家文庫にある明治末から大正頃と思われる有地道場師範の史料を見ると、明治初期にはまだかなりの門弟がいたようです。その後いつまで伝承されたか状況は不明です。

4.当流神影流は柳生宗厳の弟子岡本仁兵衛が伝えたシンカゲ流で、熊本藩校で学ばれていました。いつ肥後細川藩へ伝わったか不明ですが、岡本の孫弟子の時代にはすでに肥後細川藩で伝承されていたようです。明治期に剣道家として名前が残っている人物もおり、近代まで伝承されていました。この流派の記録で判明している免許皆伝者は第二次大戦後に亡くなっています。

5.甲乙流は柳生宗矩の門弟といわれている桑名藩主松平定綱が家臣山本助之進とともに創始した流派とされています。薩摩藩島津家に伝わった伝書が多数残っていたものです。その内容を見る限り、通説と違って江戸柳生の影響は見られず、むしろ柳生松右衛門や當流神影流と似ており、また尾張柳生の影響とみられる伝書も含まれています。


(以下次回)

参考文献

有地家新影流関係
熊本県立図書館富永家文書「新影流秘記」
同「新影流秘伝書」
同「新影流二十五条習」
筑波大学中央図書館渡辺一郎文庫「家法秘術」

當流神影流関係
熊本県立図書館富永家文書「神影流兵法覚目録」
同「神影流兵法目録」
同「神影流兵法目録之内貳拾壱箇條之理」

甲乙流関係
島津家文書 甲乙流関係伝書

尾張柳生家新陰流関係
渡辺忠敏「柳生流兵法口伝聞書」新陰流兵法転会,昭和49年
渡辺忠成・島正紀「新陰流兵法教範」新陰流兵法転会,平成11年
赤羽根龍夫「柳生新陰流を学ぶ」スキージャーナル,2007年

江戸柳生家新陰流関係
大野直之「太刀構之事 四」周南市立中央図書館徳山毛利家文書
内藤作兵衛「柳生新陰流剣術伝授書」山口県文書館三戸家 
田中甚兵衛「柳生家新陰流兵法目録」
柳生宗冬「新陰流兵法目録」
「新秘抄」武術叢書
小城新陰流関係資料

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